東京高等裁判所 昭和25年(ネ)1286号 判決 1951年6月18日
控訴人 債権者 張仲和
訴訟代理人 林挺生
被控訴人 債務者 塩見勇蔵
訴訟代理人 佐藤孝文
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は原判決を取消し、甲府地方裁判所が昭和二十五年四月二十五日同庁昭和二十五年(ヨ)第三一号不動産仮処分事件について与えた仮処分決定を認可する旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は原判決事実摘示のとおりである。
疎明として控訴人が当審における証人中島敏夫同卓新来同林万生控訴人本人の各尋問の結果を援用し、乙第十三号証中登記所のした記載及び押印の部分は成立を認めるが、その余の部分は不知、乙第十四号証の成立は不知と述べ、被控訴人が乙第十三第十四号証を提出し、当審における被控訴人本人尋問の結果を援用したほか、当事者双方の疎明方法の提出認否援用は原判決記載のとおりである。
理由
本件仮処分の本案請求の理由たる控訴人が本件建物(甲府市橘町一番地の十四所在木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗一棟建坪十二坪五合及び同所同番地所在木造杉皮葺平家建居宅一棟建坪五坪二合五勺)を被控訴人から買受けて所有者になつたという事実は疏明せられない。控訴人提出の各書証と原審証人林万生同張宗定当審証人林万生同卓新来の各証言原審の控訴人本人尋問の際の供述はこれらだけをみれば、控訴人主張の事実は一応認められないことはないのであるが、原審証人塩見力造同内藤キミエ同岡部正治の各証言、原審及び当審における被控訴人本人の供述にてらすときは、前記書証並に各証言控訴人本人の供述はどうも信用しかねるのである。結局控訴人の主張事実は疏明せられないことになるのである。
ところで、本案の請求及び仮処分の理由が疏明せられない場合でも、疏明に代えて、仮処分によつて仮処分債務者に生ずべき損害のために仮処分債権者が保証を立てるならば、原則としては仮処分をゆるすべきものであるが、請求及び仮処分の理由が単に疏明せられないというだけではなく、その理由のないことが疏明せられる場合には、裁判所は保証を立てしめて仮処分を命ずることはできないのである。請求の理由なきこと、もしくは、仮処分の理由(必要)なきことが一応認め得られるにかかわらず仮処分を命ずるのは相当でないということ説明をまたないところである。
本件においては控訴人の主張が疏明せられないことに帰するのは、被控訴人の提出援用の疏明資料によると、控訴人主張のごとき事実が実はなかつたのだということ、つまり、控訴人の請求理由なきことが疏明せられた結果である。前段説示するところによつて、本件においては保証を立てしめて仮処分を命ずべきではない。
従つて原判決は相当であるから、本件控訴は理由なしとして棄却すべく、控訴審の訴訟費用は敗訴の当事者たる控訴人の負担とすべきものである。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長判事 斎藤直一 判事 藤江忠二郎 判事 猪俣幸一)